相続の承認と放棄
2018年9月10日
相続人は相続開始の時から被相続人の一身に専属したもの(運転免許や国家試験に合格して得る資格など)を除き被相続人の財産に属した一切の権利義務を当然に承継します。
ただし、相続人にはその継承を単純承認するか、限定承認するか、相続を放棄するかを自由に選択する権利が与えられています。
1.単純承認
相続人が相続を単純承認した場合には、被相続人の権利義務を無限に承継することになります。
単純承認をする場合には、特別な手続きをとる必要ありません。熟慮期間(相続の開始があったことを知った時から3か月)内に相続放棄又は限定承認をしなかった時は、又は次の場合には単純承認したものとみなされます。
単純承認すると積極財産(現預金や土地建物等の資産、プラスの財産)、消極財産(借金などの負債、マイナスの財産)の大きさにかかわらず相続した負債を弁済しなければなりません。
2.限定承認
相続人は相続によって得た積極財産の限度で被相続人の債務を承継する限定承認を行うことができます。すなわち、相続財産によって負債を弁済してなお余りがあれば相続するということです。
限定承認をしようとするときは、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければなりません。
また、一部の相続人に限定承認を認めると、相続財産をめぐる法律関係が複雑になって清算が不可能となってしまうので限定承認は相続人全員で行わなければなりません。
3.放棄
相続の放棄は相続の開始があったことを知った時から3か月以内にその旨を家庭裁判所に申述(申述書と添付書類の提出)をして行います。ただし、その期間は申立てにより延長することができます。相続開始前にはすることができません。
相続の放棄をした者は初めから相続人でなかったものとみなされます。したがって、放棄者の代襲相続はありません。
4.相続の承認及び放棄の撤回と取り消し
限定承認及び放棄は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内であっても、撤回することはできません。これらの撤回が認められると相続が不安定になるからです。
ただし、詐欺又は強迫によって行った放棄は取り消すことができます。たとえば、他の相続人から「被相続人には多額の借金があった」と嘘を言われて放棄した場合や、脅されて放棄したような場合です。
取り消しの手続きは相続放棄の手続きと同じ家庭裁判所で行います。追認できる時点(たとえば、騙されていたと気付いた時)から6か月を経過した場合は、時効によって取消権が消滅します。また、放棄をしてから10年が経過した場合にも取消権は消滅します。
なお、相続の放棄は申述書を提出してから受理する審判まで多少の日数を要します。家庭裁判所に相続放棄の申述を行っていたとしても、まだ申述が受理されていない場合は、相続放棄の申述そのものを取り下げることが可能です。