労働契約と信義則
2024年5月14日
信義則とは?
「信義則」とは民法に規定されている考え方で、人が社会生活をする一定の状況の下で、相手方の持つであろう正当な期待に沿うように、一方の行為者が行動することを意味し、要約すれば「相手の正当な期待を裏切るような行為をしてはならない」ということです。労働契約のように、一定期間継続することが予定されている契約関係では、一般的な債権債務の関係よりも、一層当事者間の信頼関係(信義則)が強調されます。
労働契約と信義則の関係
労働契約法では「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」(同法第3条4項)と規定しています。
前述したように、「信義則」は民法にも規定があるので、この原則自体は労働契約法独自のものではありません。とはいえ、労働契約が、人間の労働の提供を内容とする継続的な関係であるとともに、契約内容を詳細に定めることの少ない実情においては、労働契約関係において、「信義則」は重要な役割を果たしています。
「信義則」が適用される場面
労働契約関係において、「信義則」が適用(援用)される場面は、一つは使用者(会社)を規制する場面で、代表例は安全配慮義務の根拠となることです。安全配慮義務の他にも、これまで裁判例により信義則が援用された例として、採用の際における労働条件の説明義務があります(日新火災海上保険事件・東京高裁平成12年4月19日)。採用時の会社の説明を信じて入社した労働者に対し、実際には入社後、説明とは異なる待遇をした会社に対して、不法行為による損害賠償責任を認めました。これ以外にも、会社が整理解雇を実施するにあたり、労働者側と協議を行い、納得を得る努力義務について、信義則を根拠づけに用いられたことがあります(東洋酸素事件・東京高裁昭和54年10月29日)。
なお、「信義則」は会社だけでなく、労働者をも規制します。労働者にも「会社に対して労働を提供する」という義務がありますから当然です。労働者に対して信義則が問題となる場面には、「企業秘密を漏洩しない(秘密保持義務)」や「退職後一定期間同種の事業を行わない(競業避止義務)」などが挙げられます。